激変予想の業界と薬剤師
まとめ
- □調剤薬局の業務は、従来の対物を中心とした業務から、患者の方を向いた対人業務へと変化。
- □地域包括ケアの推進の一環として、薬局はかかりつけ薬局としての機能を持つことが求められる。
- □医療従事者との連携の推進や24時間体制の患者相談対応など新しいあり方を求めらる。
- □現在の調剤薬局は、薬剤師の不足や管理コストの増大などさまざまな課題を抱えている。
医薬分業の目的と薬剤師
医薬分業の最大の目的は、医師と薬剤師が独立の立場からそれぞれの機能を発揮して、患者の安全性を確保することです。 薬剤師は薬学的見地から医師の処方箋を確認し、ミス等を防ぐと同時に、患者の薬歴を確認し、副作用などが出ないように指導することが求められています。
もう一つの目的として「薬の過剰投与」の防止であるといわれています。 医療機関や薬局は患者に対しては公定価格で医薬品を販売することを義務付けられていますが、薬の仕入れ価格については、卸業者との交渉で決定されます。 このため、医療機関や薬局は、安く仕入れて、公定価格で販売することによって、いわゆる「薬価差益」を得られる仕組みとなっています。
医薬分業は、患者がそれぞれかかりつけ薬局、薬剤師を持って、という薬物療法をより安全にかつ「薬漬け医療」と揶揄された状態から脱却するために始められたものです。また、医療人としての薬剤師の社会的機能の拡充を通して、より適切かつ経済効率の高い薬物療法の推進を目指したはずである。しかし、現実は調剤報酬と薬価差の経済的インパクトが大きく「処方箋獲得ビジネス」に傾斜し「立地ビジネス」になり、国民の薬局に対する「受益感」「利便性」が実感できない状態になっています。

また、医療人としての薬剤師の社会的機能の拡充を通して、より適切かつ経済効率の高い薬物療法の推進を目指したはずです。しかし、現実は調剤報酬と薬価差の経済的インパクトが大きく「処方箋獲得ビジネス」に傾斜し「立地ビジネス」になり、国民の薬局に対する「受益感」「利便性」が実感できない状態を指摘されています。
国はその「薬価差益」を適正化するため2年ごとに価格見直しをおこない、医薬品の価格引き下げにより医療費負担減や、患者の自己負担額減を目指してきました。
今後の薬剤師には、医薬分業の二つの目的のため、多剤処方や重複投薬の防止の効果があったかどうか、複数の医療機関からの処方の可能性も踏まえ、かかりつけ薬剤師として患者一人当たり薬剤使用量や薬剤費、薬剤種類数などの検証、分析、管理も求められてくるでしょう。
調剤薬局市場
このような背景と制度のもと、薬剤師の活躍とともに医薬分業は推進され、2017年度には分業率は約78.4%に達しました。産業の市場規模は7.3兆円の巨大な市場となり、そのうち医薬品原価を除外した約1.8兆円が調剤薬局の粗利規模となります。
調剤薬局は全国に約5万8,000店ありますが、参加プレイヤーは 4 つのカテゴリーに分けられ、アインホールディングスや日本調剤に代表される10社ほどの上場企業、年間売り上げが20億〜100億円ほどの「地域グループ薬局」、年間売り上げが 5 億〜20億円程度で地域に根ざした「地域薬局」、 1 店舗の家族経営の「個人薬局」といった区分となります。
市場シェアを見ると、大手 5 社の寡占率は10%と、寡占度の非常に低い業界であるといえます。 また、かかりつけ薬局を見据えたドラッグも既存店舗への調剤へ併設を積極的に進めており、業界最大手のウエルシアホールディングスは調剤併設率が68.3%と、7割に迫る勢いで店舗数は1,070店と急成長しています。
国に求められているかかりつけ薬剤師の役割
右肩上がりの成長を続けてきた調剤市場ですが、近年、門前薬局が増加し、病院や診療所で薬をもらう場合と比べ、薬局では高い自己負担額を支払わねばならないことによる「患者負担の増大」や「負担の増加に見合うサービス向上や分業効果が実感できていない」などといった医薬分業の問題点が指摘されるようになりました。
このような指摘を踏まえ、医薬分業の原点に立ち返り、現在の薬局を患者本位のかかりつけ薬局に再編するため、厚生労働省は2015年10月に「患者のための薬局ビジョン」を策定しました。
「患者のための薬局ビジョン」では、薬局業務の対物から対人へのシフトを推進するため、次の 3 つの役割を薬局に求めており、その業務の中心を担うのがかかりつけ薬剤師となります。
出典:厚労省 患者のための薬局ビジョン
新たな変化に向けて調剤薬局が抱える課題
こうした対物から対人への変化を迫られる薬局および薬剤師ですが、一方で金銭的コストおよび業務の観点からさまざまな課題をかかえており、調剤報酬の改定による減収と合わせ、変化に対応するための資源投入が容易ではない状況にあります。
患者相談への24時間対応
調剤薬局は、開局時間外でも随時電話相談を実施することが求められています。 これは小規模薬局にとって、非常に対応が難しい問題です。
過去に同様の制度が導入された診療所の例を見ると、平成28年診療報酬改定で200床未満の病院および診療所を対象とした「地域包括診療料」(24時間体制の在宅診療を行うことに対する報酬)が導入されましたが、届け出施設はわずか204施設しかありません。
当然のことながら、24時間体制を構築した場合、新たな薬剤師を雇用するコストが発生するだけでなく、既存の薬剤師の業務への負担増が予想されます。

出典:中医協 外来医療(その3)<主治医機能について>
在宅訪問
年々急増する高齢者の看取りニーズを既存の病院ではとても担いきれないため、国は病院から在宅への機能分化を進め、在宅医療提供体制の整備を推進しています。このような状況の下、薬剤師に対しても在宅医療における役割が期待されており、薬剤師が自宅や施設を訪問して薬を管理する在宅訪問のニーズはより高まると考えられます。
一方で、2015年の日本保険薬局協会の調査によると、在宅訪問を実施している薬局は2228件中985件(44%)であり、そのうち79%は月あたりの訪問数が20件未満です。 在宅訪問業務は、患者宅もしくは施設への移動だけでなく、訪問計画の作成、他の医療従事者との訪問記録の共有など、従来の調剤薬局業務にはなかった新たな業務が発生してきます。このことから、在宅訪問を提供するためには薬剤師の業務負担が増加し、場合によっては、新たな薬剤師を雇用する必要が生じてきます。
服薬管理(残薬管理)
自宅に飲み忘れなどの薬が大量にたまる残薬は2008年の日本薬剤師会の調査では、後期高齢者だけでも474億円あると見込まれています。
残薬は処方薬の多い高齢者に多く見られ、慢性疾患などにおける自覚症状の乏しさに起因する飲み忘れや、服薬の効果が知覚されにくいことによる、自己判断での服用中断や用法・用量の自己調節など、服薬アドヒアランスの低下が考えられています。
服用を忘れたため症状が悪化したり、併用薬の飲み忘れから副作用が出たりといった深刻な事態も生じています。 薬剤師の服薬指導やお薬カレンダーの活用など服薬コンプライアンスの向上に努めてはいるが、さらなる取り組みが求められている状況です。
医薬品の在庫管理
近年の後発医薬品の利用促進に伴い、各薬局で常備しなければならない医薬品の数が増加しています。 後発医薬品は種類が多く、薬剤師の在庫管理の負担が大きくなっています。
大手チェーンでは他店舗の在庫を交流などで対応をしているところもありますが、ネットワークのない小規模薬局は自ら在庫を抱えざるを得ない状況です。 また医薬品の特性上、安全管理も重要な課題です。
これまで現場レベルでは、在庫管理問題に対応するため、近隣薬局と薬を融通し合うといった対応が慣習的になされてきました。 しかし、C型肝炎治療薬・ハーボニー配合錠の偽造品が流通し、調剤薬局で処方された問題を受けて、厚生労働省は「薬局間における医療用医薬品の譲受・譲渡に関するガイドライン」を策定するなど、ガイドラインを受け、薬局においても、より厳重な管理が求められています。 また、医薬品の廃棄ロスも大きな問題です。
厚生労働省の報告によれば、医薬品の購入金額の0.3%(後発医薬品では0.4%)が廃棄されています。 調剤薬局における薬剤料が約 5兆円であることから、年1500億円の損失が出ていると試算でき、調剤薬局の金銭的負担になっています。 こうした医薬品の在庫管理は薬剤師の業務の一つですが、多忙な調剤業務の中、大きな負担となっています。
